炭素排出枠一転して上昇

  • EUAの終値は前週比18%増の81.60ユーロ。取引レンジは14.94ユーロまで急拡大(前週は3.43ユーロ)。
  • テクニカルブレイク後の一連の買い戻しを受け、EUAは上向きで展開。週半ばにやや保ち合いになったものの、上向き傾向は引けまで持続。
  • 欧州議会のBUDG(予算委員会)がリパワーEU計画の資金の確保に向け、オークションの前倒しに賛成投票。本投票は11月9日の予定。
  • EU-ETSの刷新に向けた協議はCOP27(11月6~18日)後まで結論持ち越しとの見方広がる。これにともなうEUAへの影響が懸念される。
  • ECがガス価格の抑制に向けて差額契約を検討(「その他のニュース」を参照)。TTF価格と目標価格の差額は補助金で補填。目標価格は近々発表の予定。ガス価格の抑制で電力輸出拡大か。EU各国のエネルギー相による承認は11月24日の予定。
  • 8月末の最高値から55%下落したY1ガス価格(最近の温暖な天気、LNGの潤沢な供給、十分なガス貯蔵量が要因)を受け、休止していた工場が徐々に再開し、EUAの需要を下支え。
  • 予報では気温低下の見通し。ガス価格の反転上昇とともに消費も拡大か。これにともない、石炭火力発電の継続でEUAの需要は堅調。
  • 引き続き産業空洞化のリスクに直面するヨーロッパ。BASFが恒久的な事業縮小を発表したことでEUAの需要に暗雲。
  • マクロ的問題は残るものの、ガス価格の下落でECBの利上げが遅れる可能性。
  • 水曜のEUAのオークションは無し。供給逼迫の可能性。

気温低下が予想される中でガスに注視。Redshaw社の見通し:横ばいから強含み
  • UKAの終値は前週比13%増の78.99ポンド。取引レンジは12.69ポンドまで急拡大(前週は3.30ポンド)。
  • UKAの対EUAの週間平均プレミアムは10.55ユーロに縮小(前週は12.49ユーロ)。現在の全体のプレミアムは9.62ユーロ(チャート2を参照)。
  • UKAがEU市場の上げ相場を反映。その排出枠が再び増加する前に価格がわずかに反転。
  • 天然ガス貯蔵施設「ラフ」が貯蔵容量の20%で再開したものの、これはイギリスの年間需要量の2%程度。予想される気温の低下で貯蔵量の減少が見込まれる。フランスの原子力発電所の停止で国際連係線による電力供給も危機的状況。停電、工業生産の停止、UKAの需要低下が懸念される。
  • 秋の声明は11月17日に発表の予定。市場は最大で年間500億ポンド規模の増税と支出削減を予測。イングランド銀行の会合は11月3日に開催の予定。
  • 今週のオークション―11月2日に330万トン

引き続き投資家心理は下向き
  • KFA Global Carbon ETF(投資家心理の指標)のEUA保有量は約1%減の570万トン。UKA保有量も約1%減の412,000トン。NAV(Net Asset Value:純資産総額)は約7億6,700万米ドル。

その他のコンプライアンス市場(法的な取り組み)に関する最新情報
  • EUがイベリア・スタイルの上限価格規制を検討。スナク新首相が低炭素発電事業者を対象とした収益制限について方針の180 度転換を検討。

ボランタリー炭素市場(自主的な取り組み)に関する最新情報
  • GER(Global Emission Reduction)は前週比9%減。公的ブロックチェーンのデータベース「Climate Action Data Trust」が12月にスタート。

再生可能エネルギーに関する最新情報
  • EUのGO(Guarantees of Origin:発電源証明)は約11%増の5.95ユーロ。ファンダメンタルズが引き続き強い中でヨーロッパのGOは6ユーロ//MWhを視野に。排出は2025年がピークとIEAが予測。
スプレッド縮小するも引き続きコストが鍵
  • 下記左の図はEUA、ドイツ電力、ARA石炭(石炭のベンチマーク)、TTF天然ガス(天然ガスのベンチマーク)の一年先の先物価格の推移。
    • Dec Y1(一年先の12月先物価格)を見ると、先週、 EUAは約+18%。ドイツ電力は約+5%、ARA石炭は約-7%、TTFガスは約-4%。
  • 下記右の図は石炭とガスを燃料とする一年後の先物価格をもとにしたドイツの発電マージン。
    • Y1石炭のマージンは244ユーロ/MWh前後(今週7%増)、Y1ガスのマージンは103ユーロ/MWh前後(今週29%増)。
    • 電用燃料としての石炭は引き続きガスより収益性が高い。

その他のコンプライアンス市場に関する最新情報
EUがイベリア・スタイルの上限価格規制を検討 ECはガス価格の高騰が電力価格の設定におよぼす影響を緩和するため、ガス火力発電所を対象とした差額契約(CfDs)の適用を提案する構え。TTFの前日価格と発電の目標価格の差額は補助金で補填される。これにともない、ガス火力発電所には補助金相当の電力コストの引き下げが義務付けられる。補助金のレベルはまだ決定されていないが、一部の加盟国は発電向けガスの価格を100~120ユーロ/MWhに下げる措置を支持している。電力卸売市場で価格が下がれば、180ユーロ/MWhという上限価格規制により、発電事業者の報酬レベルも下がる。しかし、EUの電力価格を意図的に下げても、非EU国への輸出が拡大し、ガスの需要が高まるとは限らない。

スナク首相が低炭素発電事業者を対象とした収益制限について方針の180 度転換を検討 リン・スナク新首相は、低炭素発電事業者を対象としたリズ・トラス前首相による収益制限を撤廃し、代案として超過利潤税の選択を検討している。これは、石油・ガス生産者へのエネルギー利潤税(EPL)(5月施行)の延長として導入される。貿易機関であるEnergy UKは以前、収益制限は25%の課税より厳しいものになるだろうと警告している。超過利潤税は当初の期限である2025年12月から延長される可能性もある。スナク首相はイングランドでのフラッキングを再び一時停止する措置も表明している。これもトラス前首相からの180度の方針転換。シェールガス探鉱ライセンスを保有するIGas Energyは、「損失回収に向けて既存の法的手順を踏む権利を無効にするものだ」として、この方針転換を非難している。
ボランタリー炭素市場に関する最新情報
GER (Global Emission Reduction)は前週比9%減。
AirCarbon ExchangeのCET(CORSIA Eligible Token)とGNT(Global Nature Token)はともに横ばい。

VCMの公的メタデータレイヤー「Climate Action Data Trust」が12月に誕生 Climate Action Data Trust (CAD Trust)は世界銀行、国際排出量取引協会(IETA)、その他多数の政府や企業による共同イニシアチブである。その目的は、オープンソースのメタデータシステムにより、デジタルプラットフォーム上でカーボンクレジットとそのプロジェクトに関する情報を共有することにある。このCAD Trustにより、ボランタリー炭素市場(VCM)全体のデータを俯瞰し、複合登録システムへ統合することが容易となる。プラットフォームには分散型台帳技術(ブロックチェーン)が導入され、データは分散して記録される。これにより、二重カウントが回避され、カーボンデータの信頼性が高まり、気候対策がより一層促進されることが期待されている。
再生可能エネルギーニュース
第43週 AIB再生可能エネルギー(本年):

仲値:5.9500ユーロ(0.6800ユーロ増)

UK RGGO気配値:
作物:15.50~17.00ポンド、廃棄物:26.00~30.00ポンド(横ばい)

ファンダメンタルズが引き続き強い中でヨーロッパのGOは6ユーロ//MWhを視野に ベンチマークである北欧の水力発電Cal 22契約価格が上昇を続けている。先週は0.50ユーロ/MWh近く高騰し、5.80ユーロ/MWhに達した。アナリストはこの高騰の原因として、引き続き堅調な需要とノルウェーにおける水力発電量の低下を挙げている。後者は、冬季に備えて発電用に節水することを同国のエネルギー相が事業者に奨励していることが要因。 水力発電はノルウェーの総発電量の90%を占めているが、夏季の雨不足により、同国の水理学的バランスは過去20年で最低の水準にある。しかし、現在の水力発電量の低下はGO価格の高騰と整合していないと他の専門家は考えており、むしろ下方修正を予測している。

排出は2025年がピークとIEAが発表 エネルギー部門からの炭素の排出は2025年がピークと国際エネルギー機関(IEA)は分析している。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて各国政府がクリーン燃料に投資していることが主な要因。分析結果によると、エネルギー危機に呼応してクリーン エネルギーに投資が計画されているため、化石燃料需要は2020年代がピークとなる模様。こうした新たな計画により、低炭素エネルギーへの投資は2030年まで毎年2兆米ドル増加する。これは現在のレベルから50%以上増加することを意味する。しかし、2050年までにネットゼロを達成するには、2030年までこの投資額を毎年4兆米ドル積み重ねる必要がある。一方、クリーンエネルギーへの移行により、侵攻前と比較し、ロシアは化石燃料による収益を1兆米ドル失うことになるとIEAは予測している。



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