EU ETSの政治的対立が炭素価格の重荷に

  • EUAの終値は、前週比約5%減で82.35ユーロ。取引レンジは8.11ユーロ(前週は5.55ユーロ)。
  • EUAは、新たな買気が入ったものの、低調なスタートとなった。その後、欧州議会本会議での採決のニュースでボラティリティの高い取引となったが、週末にはトレーダーがショートポジションを解消したこともあり、いくらか回復した。
  • EU ETS改革とCBAMのENVIへの復帰(「その他のコンプライアンス市場に関する最新情報」参照)により、市場はその動向を注視している。
  • ENVIは6月13-14日に開催される予定。EU ETS報告者のPeter Liese氏は、次回6月22-23日の本会議までに明確な合意を得ることを強く希望している。
  • 政治グループ間の分裂が顕著であるため、このスケジュールに遅れが生じると、EUAの価格が圧迫される可能性がある。特に、(7月下旬からの)夏季休暇を考えると、さらに遅れる可能性がある。
  • EUAの価格は、法案の修正に関するニュースに敏感であり、価格変動につながる可能性がある。
  • 炭素市場で金融投機家にどの程度の制限を設けるかは、市場の継続的な焦点となっている。
  • EUAの価格コントロールメカニズムも同様に、注視されることになる。
  • 市場は、フリーポートLNGテキサス工場 の爆発・火災事故後のガス供給動向にも注視している。(3週間後に予定されている)再稼働が遅れれば、冬を前に在庫を補充する必要があるため、欧州のガス価格に上昇圧力がかかりそうだ。
  • スケジュールをチェック:Carbon Forward – 欧州最大の環境カンファレンスが、2022年10月12日~14日、ロンドンで開催決定。
オークションの供給が上昇を抑制する可能性 – Redshaw社の見通し:中立

  • UKAは、前週比約1%減の82.26ポンドで取引を終了。取引レンジは2.30ポンドと縮小(前週は2.90ポンド)。
  • UKAとEUAのプレミアムの差の週間平均は15.03ユーロに拡大(先週は12.64ユーロ)。プレミアム合計は、7.33ユーロ。(チャート2を参照)
  • 週明けのUKAは、狭いレンジでの取引となり、比較的落ち着いたスタートとなった。その後、若干の反発を見せた後、静かで落ち着いた終値となった。
  • 今週6月15日に320万トンのオークション予定。
投資家の関心により、さらなる調整を見込む

  • KFA Global Carbon ETF (投資家のための指標) EUA保有量は、約1%減の820万トン。UKAは約2%減の61.2万トン。NAVは約1.2億米ドル。
テクニカルな短期の見通し:中立-強気

  • Futurestechs社による次目標:下値は、78.90ユーロ、77.38ユーロ、76.36〜.48ユーロ。
  • 好ましい取引:短期的に両方向の取引を行う余地あり。ショートが選択として良い。
その他のコンプライアンスに関する最新情報

  • 議員は、6月の排出量目標達成に期待。EU議会のCBAM論争により、国境炭素税が数年遅れる可能性あり。
ボランタリー炭素市場に関する最新情報

  • CET価格は前週比1%下落。自主的炭素市場十全性イニシアティブ(VCMI)はVCMI Code(Claims Code of Practice) の暫定版を発表。
再生可能エネルギーに関する最新情報

    EU GOが約2%増の1.995ユーロ。IRENA とRCREEE が中東・北アフリカ地域でのエネルギー移行協力を強化。スイスのGOがまもなくGrexel 社のプラットフォームで管理される予定。
テクニカルな見通し:中立–強気

以下の分析は、受賞歴のあるClive Lambert 氏(Futurestechs社)によるものである。
  • 短期的な傾向:中立–強気       
  • 速やかな回復とはならなかったが、先週の終わりの下ヒゲは、は78.90ユーロを下回る推移を保った。 週足チャートの「ブリッシュ・エンガルフィング」 ロウソクを基準にすると、翌週を迎えるにあたり、少し重い印象をうける。
  • 好ましい取引:短期的に両方向の取引を行う余地あり。ショートが選択として良い。

石炭とガスのマージンは共に低下したが、石炭がリードを保つ

  • チャート4は、EUA、ドイツ電力、ARA石炭、TTF天然ガスの価格推移を示したものである。
    • 先週は、12月Y1 EUAが約5%、Y1ドイツ電力が約10%、Y1 ARA石炭が約7%、Y1 TTFガスが約2%の下落となった。
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  • チャート5は、石炭とガスを燃料とするドイツの発電燃料マージンである。
    • Y1石炭マージンは約79ユーロ/MWh(今週18%減)、Y1ガスマージンは約36ユーロ/MWh(25%減)である。
    • 発電用燃料としての石炭は、引き続きガスよりも収益性が高い。


その他のコンプライアンス市場に関する最新情報

議員は、6月の排出量目標達成に期待。
欧州議会(EP)は、次回の本会議(6月22〜23日)で、ETS改革、社会気候基金、CBAMに関する投票を行う予定である。6月8日のEPで、EU ETS改革をENVI(環境委員会)に戻すことが、340票対265票(棄権34票)で可決された。ENVIは、6月13日から14日にかけて再び会合を開くことになっている。改革をめぐる政治的な対立は激しく、その溝を埋められるかどうかは、まだはっきりしていない。

EU議会のCBAM論争によって、国境炭素税が何年も遅れる可能性が。
6月8日の本会議投票では、中道右派の欧州議会議員がCBAM提案に修正を加え、2028から2034年まで段階的に無償排出枠を廃止することになった(影響を受ける産業が、外国の競合へ適用される国境炭素税によって利益を得られたであろうにも関わらず)。これは、ENVIの2025〜30年案やFit for 55の2026〜35年原案よりも遅れをとっている。産業界は長い間、移行期間の延長と無償排出枠支給の延長を求めるロビー活動を続けてきた。これは、提案に反対票を投じた中道左派の政党から猛烈な反発を受けている。米国は、EU議員に対し、G7間で措置の調整がつくまでCBAMを延期するよう強く要求している。しかし、EUは米国で炭素の国境関税 が成立することに懐疑的であると報じられている。どのような形であれ、CBAMが成立するスケジュールは不明である。これは米国にとって、法案の承認を遅らせるためにEU各国政府を説得する時間を稼げると、解説者らは論議している。もしそうなら、遅延が何年にも及ぶ恐れがあると一部の人は考えている。
ボランタリー炭素市場に関する最新情報

今週のCET価格は1%下落 : CET(CORSIA Eligible Token)は、Air Carbon Exchangeで取引される(=CORSIA規格に基づくVER)。

ACXネイチャーベースの価格は前週比横ばい。

自主的炭素市場十全性イニシアティブ(VCMI)はVCMI Code(Claims Code of Practice)の暫定版を発表。

VCMI Codeは、カーボンクレジットの自主的な使用と関連する主張を正しく導くことを目的としている。この発表では、ステークホルダーや企業に、行動規範を見直し、コンサルテーションの一環として意見を受けるように促した。VCMIのエグゼクティブディレクターであるMark Kenber氏は、「カーボンクレジットの使用に関する企業の主張について、脱炭素化と合わせて、一貫性と整合性を提供するものが必要だ。」と述べている。VCMI Codeの最終版は、2023年初頭に発行される予定だ。
再生可能エネルギー市場に関する最新情報

今年の第23週目AIB再生可能エネルギー:

仲値 = 1.995 ユーロ (+ 0.035 ユーロ)

IRENAとRCREEEが中東・北アフリカ地域でのエネルギー移行協力を強化。
IRENA(International Renewable Energy Agency)とRCREEE(Regional Center for Renewable Energy and Energy Efficiency)は中東・北アフリカ地域での再生可能エネルギー展開の規模拡大に協力することに合意した。両組織は、地域対話の提携、知識の共有、地域全体に再生可能エネルギーの設備を構築することに協力する予定だ。この合意は、2015年に両組織が締結した既存のMoUを更新する形で行われた。IRENAとRECREEEは、PACE(Pan-Arab Clean Energy Initiative)など、他のイニシアチブでも戦略的パートナーとなっている。

スイスのGOはまもなくGrexel社のプラットフォームで管理される予定。
Grexel社は、Pronovo社がGO(発電源証明)の管理にG-REXプラットフォームの利用を開始することを発表した。新しいレジストリシステムは、Grexel社の新しいレジストリソリューションであるG-REXで運用される予定だ。G-REXは、APIファーストで設計されているため、統合や拡張が容易にできるとされている。また、G-REXは、GOの発行からエネルギー情報の開示まで、スムーズでユーザーフレンドリーなプロセスを可能にする最新の開示機能も期待される。



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