炭素価格は供給増加のリスクで揺らぐ

  • EUAの終値は80.37ユーロ。前週比約9%減、取引レンジは12.59ユーロ(前週は10.32ユーロ)。
  • 週明けのEUAは前向きにスタート(ENVI (Committee on the Environment, Public Health and Food Safety:環境・公衆衛生・食品安全委員会) が気候政策の強化に賛成したことが支援材料)。しかし、EC(the European Commission:欧州委員会)がロシアのエネルギーからの脱却するための資金として、2億〜2億5,000万規模のEUAをMSR(市場安定化リザーブ)から放出する可能性があるとの報道を受け、週半ばに状況は一転した(「その他の コンプライアンス市場に関する最新情報」を参照)。産業界からの支援にも関わらず、価格は下落を続けた。       
  • 今後数週間にわたって、オークションの供給量が減少することで、価格が下支えされる可能性がある。
  • MSRの放出が見込まれ、ENVIが金融投機抑制に前向きであることから、市場の予測可能性への懸念が引き続き高まる可能性がある。
  • Gazprom社(露)によると、54人の外国人顧客の半数がルーブル建て口座を開設したと報告している。ロシアのガス供給が削減される可能性は低くなった。
  • コロンビア(抗議活動)や南アフリカ(鉄道問題)により、供給が制限される。米国産石炭の欧州向け輸出が前年同期比40%増となったが、石炭市場は引き続きタイト。
  • CBAM対象セクターの無償排出枠の廃止のタイミングと期限にも注目が集まる。WTOのコンプライアンスは依然として不明であり、輸出リベートの有無も明確でない。
  • ガス発電のマージンは引き続き石炭発電のマージンを上回っている(ガス安と石炭高の価格設定による)。差し迫ってはいないが、石炭からガスへの燃料転換の見通しは、EUA価格にのしかかるだろう。
  • ENVIは、2030年の67%排出量削減目標の採択を決議。本会議での採決は6月6日から9日にかけて行われる予定。       
  • スケジュールをチェック:Carbon Forward – 欧州最大の環境カンファレンスが、2022年10月12日~14日、ロンドンで開催。
オークションはないが、ガスのマージンは上昇 - Redshawの見通し:強気

  • UKAは82.26ポンドで取引を終了、前週比約2%減、5.89ポンドのわずかに狭いレンジで取引された(前週のレンジは5.94ポンド) 。
  • UKAとEUAのプレミアムの差の週間平均は12.97ユーロに拡大(前週は12.73ユーロ)。プレミアム合計は7.01ユーロとなった(チャート2を参照)。
  • UKAは、週初めは静かなスタートとなったが、週半ばにEUAと同調して下落。UKAは、週後半に若干の回復力を維持したが、終値では下落した。
  • 今週のオークションはなし。次回は、320万トン分のUKAオークションが6月1日に行われる。
投資家の関心はさらに後退

  • KFA Global Carbon ETF(投資家のための指標) EUAの保有量は約3%減の870万トン(11月下旬のピークから約28%減)。UKAは約4%減の63.6万トン(3月上旬のピークから約23%減)。NAVは約13億米ドル。
テクニカルな短期見通し:中立-弱気

  • Futurestechs社による次目標:上値は95.56ユーロと98.49ユーロ、下値は78.72ユーロ。
  • 好ましい取引:双方向の取引が可能な範囲。短期的にはショートが有利か?
その他のコンプライアンスに関する最新情報

  • EUは、ロシア産ガスから脱却する資金として、MSRからのEUA売却を準備。2022年のEU ETS販売量を約3%削減。
ボランタリー炭素市場に関する最新情報

  • CET価格は前週比横ばい、ブラジルでは大臣が炭素市場の統制を発表。
再生可能エネルギーに関する最新情報

  • EU GO(原産地保証)は、約9%減の1.8150ユーロに。EUにおいては、新規建築物にはすべて屋上太陽光発電システムが設置される可能性がある。EU4カ国は、2050年までに北海で150GWの洋上風力発電の開発を検討している。
テクニカルな見通し:中立 - 弱気

以下の分析は、受賞歴のあるClive Lambert 氏(Futurestechs社)によるものである。
  • 短期的な傾向:中立-弱気
  • 昨日(2022年5月22日)のチャート:金曜日(5月20日)に終値ベースで81.90ユーロを突破し、ベアを後押した。その後は80.16ユーロ、そして78.90ユーロとなった。
  • 好ましい取引:双方向の取引が可能な範囲。現在、短期的にはショートが有利か?

ガス価格の下落と石炭価格の上昇により、ガスマージンの拡大が続く

  • チャート5は、EUA、ドイツ電力、ARA石炭、TTF天然ガスの価格推移を示したものである。
    • 先週は、12月Y1 EUAが約9%下落、Y1ドイツ電力が約 2%下落、Y1 ARA石炭が約12%上昇した。一方、Y1 TTFガスは約4%下落した。
  • チャート6は 、石炭とガスを燃料とするドイツの発電燃料マージンである。
    • Y1石炭のマージンは約67ユーロ/MWh(今週8%減)、Y1ガスマージンは約32ユーロ/MWh(25%上昇)である。
    • 発電用燃料としての石炭は、引き続きガスよりも収益性が高い。


その他のコンプライアンス市場ニュース

EUは、ロシア産ガスから脱却する資金として、MSRからEUA売却を準備
ECの「REPowerEU」イニシアティブは、10年後までに、ロシアの化石燃料に頼らないEUの多様性の為に、新しいインフラと代替供給に3,000億ユーロを投じる予定である。ブリュッセルはこのうち200億ユーロを余剰の炭素排出権の売却で調達することを検討している。この場合、現在MSRが保持している26.3億のEUAのうち、2億〜2.5億EUAを売却することになる。市場の供給量が増えれば、EUA価格に圧力がかかり、化石燃料の燃焼コストが低下する可能性がある。したがって、この動きはEU加盟国の間で議論を呼び、「Fit for 55」の野望を損なう可能性がある、と考える評論家もいる。投機抑制に関する最近のENVIの決議を考えると、このさらなる動きは、一部の金融投資家がロングポジションを解消することにつながる可能性がある。

2022年のEU ETS販売量、約3%減
ECは、今年、一般のオークションプラットフォームを通じて販売されるEUAの数を下方修正した。これは、計算の修正に伴うものである。EEXのオークションでは、合計約4億600万(前回は約4億1,800万)が出品される予定である。取引量を抑えた初回販売は6月7日に実施される。その後、7月末までのEU全域のオークションでは、前回予定されていた251万から約230万に減少する予定である。8月の販売数は約115万である(前回125万)。8月は夏季休業で需要が少ないため、毎年販売数を減らしている。その他のオークション、すなわちドイツ、ポーランド、北アイルランドのオークション、およびEU航空部門向けのオークションは変更されない。


ボランタリー炭素市場のニュース

今週のCET価格は横ばい:CET(CORSIA Eligible Token)が、Air Carbon Exchangeで取引される

ACXネイチャーベース価格は前週比横ばい。

ブラジルでは大臣が炭素市場の統制を発表

Joaquim Leite環境大臣は、ブラジルにおいて、統制された炭素市場の創設を発表した。Leite大臣は、ブラジルが世界最大のカーボンクレジットの販売国になると主張している。また、ブラジルは、社会的に有益な影響を与えるクレジットの品質と、クレジット生成手段の多様性により、差別化を図れるだろうと加えた。WayCarbon社とブラジル国際商工会議所(the International Chamber of Commerce Brazil)の予測によると、この発言は十分に裏付けられ、ブラジルのカーボンクレジットの可能性は非常に大きいと予想する。彼らは、2030年までにブラジルが1,000億レアル(約2,000万米ドル)のカーボンクレジットの収益を上げることができると見積もっている。
再生可能エネルギー市場に関するニュース

当年の第20週AIB再生可能エネルギー:

中値 = 1.8150ユーロ(- 0.2000ユーロ)

EUの新しい建物にはすべて屋上太陽光発電が設置される可能性がある。
EUの「REPowerEU」計画の一環として、すべての新しい建物にソーラーパネルが取り付けられる可能性がある。この提案は、加盟国に対し、エネルギー消費量の多い建物において、国家的な屋上太陽光発電の支援プログラムの立ち上げを奨励するものである。また、この計画は、エネルギー貯蔵や熱交換器の導入と同時に行うべきものであるとしている。加盟国は、適宜、行政機関や学校などすべての公共の建物に太陽光発電を導入することが求められる。

EUの4カ国は、2050年までに北海で150GWの洋上風力を開発することを検討している。
報告によると、デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギーが協力し、2050年までに1億5,000万世帯に洋上風力発電を供給する。ECは、2050年までにカーボンニュートラルを達成し、化石燃料への依存をなくす為に、300GWの洋上風力を導入したいとする。4カ国は、2030年までに65GWの中間目標を設定した。デンマークは2030年までに9-13GW、2050年までに35GWを設置する計画である。このような共同プロジェクトの実施には、134億ユーロの投資が必要だと推定される。



会員登録・ログインでコメントの閲覧ができます。

法人様向けの有料プログラム

有料サービスに申し込む

コメント投稿や閲覧が可能

無料会員に登録する

既に会員のかた

ログインする