エネルギーミックスへの需要が強いにもかかわらず、炭素排出枠は失速。

  • EUA(European Union Allowance:EU排出枠)の終値は、前週比−4%の82.69ユーロ。取引レンジは4.65ユーロと小幅(前週は7.35ユーロ)。
  • 景気後退懸念から下落したため、EUAは静かな立ち上がりとなった。その後、エネルギーミックスへの需要強さとノルウェーのガスストライキ終了のニュースを受けて、いくらか回復したが、これは維持できず、相場は引けにかけて下落した。
  • カナダがNSガスタービンの制裁を一時的に解除したため、ガス価格に下落圧力がかかっている。露Gazprom社は、タービンの返却によりNSのガス供給量が(直近はキャパシティーの40%削減)増加する可能性があると表明した。NSは現在、(7月11日から21日までの)10日間のメンテナンスを開始している。その後、ガスの供給が停止されれば、価格が上昇し、排出量の多い石炭に継続的に依存することになるだろう。
  • 石炭の不透明感も継続。欧州の港湾在庫は2年半ぶりの高水準だが、豪州の輸出は雨天のため縮小した。ドイツの高温・乾燥の天候が河川の艀(はしけ)にさらなる悪影響を与える可能性。(ロシアからの石炭輸入禁止)8月10日以降の石炭のドローダウンレートに注目。
  • ドイツとフランスは現在、エネルギー企業を国有化・救済し、エネルギーを配給している。このことや(価格高騰による)需要喪失により、工業生産が低下し、炭素排出枠の需要が減少する可能性がある。
  • 景気後退の懸念は継続中、EUエネルギー大臣会合が7月26日に開催される。


オークションによる供給が重荷になる可能性 − Redshaw社の見通し:中立
  • UKA(United Kingdom Allowance:英国排出枠)の終値は、前週比−4%の82.25ポンド。取引レンジは、4.95ポンドとレンジ幅拡大(先週は4.65ポンド)。
  • UKAの対EUAの週間平均プレミアムは、14.24ユーロに拡大(先週は9.95ユーロ)。現在のプレミアムは、7.62ユーロ(チャート2参照)。
  • UKAはエネルギーミックスの活動から切り離され、穏やかなスタートとなった。その後、(EUAとは対照的に)価格には下落圧力がかかった。引けは持ち直したものの、今週の損失を取り戻すには至らなかった。
  • Drax社、石炭火力発電機2基を2023年3月まで延長(その他のコンプライアンス市場に関する最新情報を参照)。
  • 今週7月13日に320万トンのオークション予定。

投資家の関心は引き続き後退
  • KFA Global Carbon ETF(投資家心理の指標)EUAの保有量は、約−2%の780万トン、UKAの保有量は、約−2%の57.1万トン、NAV(Net Asset Value:純資産総額)は、約11億米ドル。

テクニカルな短期的な見通し – 強気
  • 好ましい取引:押し目買い。

その他のコンプライアンスに関する最新情報
  • フランス、エネルギー危機を受けてEDF(Électricité de France:フランス電力会社)社を国有化へ。Drax社、石炭火力発電機の使用を冬の間の延長に合意。

ボランタリー炭素市場に関する最新情報
  • CET(CORSIA(=Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation:国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム)Eligible Tokens)価格は前週比−3%。香港が国際炭素協議会を発足。

再生可能エネルギーに関する最新情報
  • EU GO(Guarantees of Origin:発電源証明)は、約−1%の2.075ユーロ。IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)、世界の太陽光発電のサプライチェーンが中国に集中しすぎていると警告。欧州最大のバイオガス生産者は、EUの目標が達成できない可能性があると警告。
テクニカルな見通し – 強気
以下の分析は、受賞歴のあるClive Lambert氏(Futurestechs社)によるものである。
  • 短期的な傾向:強気       
  • 昨日(2022年7月10日)までの相場動向:週明けの安値は、82.52ユーロを維持していたが、金曜日(7月8日)に陰線であった。週後半の安値は、82.60ユーロ。82.52-60ユーロ割れれば、さらに下降する可能性があったが、今日の取引開始時点では、まだ「値幅は小動き」であることが示唆される。
  • 好ましい取引:押し目買い。

ガス価格の上昇(供給懸念)がガス収益率を圧迫し、石炭収益率が躍進
  • チャート5は、EUA、ドイツ電力、ARA石炭(石炭のベンチマーク)、TTF天然ガス(天然ガスのベンチマーク)の一年先渡の価格推移を示したものである。
    • 先週、Dec Y1 (一年先渡の12月価格)EUAは、−3%。ドイツ電力は、約+15%。ARA石炭は、約+10%。TTFガスは、約+30%。
  • チャート6は、石炭とガスを燃料とする一年先渡価格(Y1)に基づく、ドイツの発電燃料マージンである。
    • Y1石炭の収益率は、約187ユーロ/MWh(今週+41%)。Y1ガスの収益率は、約53ユーロ/MWh(−4%)。
    • 発電燃料としての石炭は、引き続きガスよりも収益性が高い。

その他のコンプライアンス市場に関する最新情報
フランス、エネルギー危機を受けてEDF社を国有化へ。 フランス首相のÉlisabeth Borne氏は、負債を抱える電力大手EDF社を再国有化することで、エネルギー価格上昇の影響を抑えるつもりだ。EDF社の財政は逼迫している。同社グループは、安値の先渡電力を買い戻す前に、原子力発電による先渡電力を売ってしまっている。これは、価格が歴史的な高値にある現在の不安定な市場で適正な価格を維持するのが難しいことが示している。フランス政府は、EDF社の原子力発電によって、エネルギー価格の高騰の影響を抑えることができると期待している。フランス政府は出資比率を84%から100%に引き上げる意向だ。これには50億ユーロの費用がかかると推定されている。Borne氏は、国有化の時期を明言しなかった。

Drax社、石炭火力発電の使用を冬の間延長に合意。 英国ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣であるKwasi Kwarteng氏は、Drax社は、予定していた閉鎖を6ヶ月延期し、2023年3月までとすることに合意したと述べた。同発電所は、Drax社の二酸化炭素削減の試みの一環として、9月下旬に石炭事業を閉鎖する予定だった。同社は、そのほとんどをバイオマスに切り替えているが、石炭発電機が2基残っている。Drax社は、この発電機は契約期間中、商業的に生成されず、National Grid社から指示された場合にのみ稼働すると述べている。本契約に基づき、Drax社には手数料と補償費用が支払われる予定だ。英国政府は、British Gas社のオーナーであるCentrica社と北海にあるラフガス貯蔵施設の再開についても協議している。同施設は、2017年に閉鎖された。
ボランタリー炭素市場に関する最新情報
今週はCET価格が−3%:CETは、AirCarbon Exchangeで取引される(=CORSIA規格に基づくVER(Verified Emission Reduction:第三者認証排出削減量))。
ACX(AirCarbon Exchange)ネイチャーベース価格は、先週比+3%。
香港が国際炭素協議会を発足。 HKEX(Hong Kong Exchanges and Clearing Limited:香港証券取引所)は、香港国際炭素市場協議会を発足させた。香港および中国本土における持続可能な金融環境の発展を促進することを目的として、有力企業や金融機関などで構成される協議会である。オーストラリア・ニュージーランド銀行や中国銀行(香港)、スタンダードチャータード銀行(香港)などが創立時の初期メンバーとして加盟している。HKEXは近頃、アジア太平洋地域における炭素取引の機会を探っている。同協議会は、香港を拠点とした効率的かつ効果的な国際炭素市場の発展に関する見識を集めることを望んでいる。
再生可能エネルギー市場に関する最新情報
今年27週目のAIB(Association of Issuing Bodies)再生可能エネルギー:

仲値=2.0750ユーロ(-0.02000ユーロ)

IEA社は、世界の太陽光発電のサプライチェーンが中国に集中しすぎていると警告。 太陽光発電技術は、世界の多くの地域で最も安価に発電する方法になっている。排出量削減目標を達成するためには、ポリシリコン、インゴット、ウェハー、セル、モジュールなど、ソーラーパネルの主要部品の生産を2030年までに現在の2倍にする必要があると推定される。2021年には、ポリシリコン製造の79%を中国が占めている。しかし、近い将来、世界のポリシリコンの95%近くを中国が生産することになる。IEA社は、このレベルの集中度はかなりの脆弱性を意味し、これらの部品を別の国で製造することがこのリスクを減らすことに役立つと警告している。

欧州最大のバイオガス生産者は、EUの目標が達成できない可能性があると警告。
バイオメタンは、化学的には天然ガスと同じだが、動物性廃棄物や産業廃棄物の管理された分解によって生成される。EUは、生産量を2倍以上にし、年末までにロシアのガス輸入を3分の2に減らすという目標のうち3%程度に貢献することを目標としている。しかし、デンマークのバイオメタン製造会社Nature Energy社のCEOであるOle Hvelplund氏は、許可を得て工場を建設するには、最低でも2年はかかるため、これは非現実的であると示した。バイオメタンは、天然ガスに代わる魅力的な燃料として考えられている。2020年3月のIEA社の報告によると、バイオメタン生産の平均価格は19米ドル/mmbtuで、これに追加で送電コストがかかると推定されている。これは、現在の欧州のガス価格がおよそ50米ドル/mmbtuであることと比較される。



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