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投機筋がショートポジションを積み上げているものの、実質的需要とエネルギー市場全般でのスプレッドの改善を受けてEUAは上昇;政治的不確実性を反映してUKAは保ち合い

  • EUAの終値は前週比2.99ユーロ増(4.4%増)の70.35ユーロ。取引レンジは4.82ユーロに拡大(前週は3.31ユーロ)。フランス総選挙の第1回投票で国民連合が予想以上に健闘したことでEUAは強含みでスタート。堅調な実質的需要を受けて週前半に大幅上昇。月曜には67.13ユーロだった底値が水曜には週最高値の71.95ユーロに達し、200日移動平均を突破。しかし、その後に売りが発生し、200日移動平均超えの勢いは失速。週後半は弱気が優勢となり、各日、200日移動平均超えには至らず、下落傾向で引けた。
  • 日中平均ボラティリティは2.13ユーロに上昇(前週は1.75ユーロ)
  • 天気:気温は平年並み。風は弱め。
  • ガス貯蔵量は79%に微増(先週は77%)。LNG貯蔵量も60%に増加(先週は56%)。
  • 取引ポジションのデータ:投資ファンドのネットショートポジションが300万トン増加。前週の-1,820万トンに対し、先週は-2,120万トン。6月28日取引終了時点のデータ。
  • 次のテクニカルなサポートレベルは70.08ユーロ、69.81ユーロ、69.61ユーロ。注目すべきレジスタンスレベルは70.61ユーロ、70.96ユーロ、71.24ユーロ。
労働党の勝利で「グリーンアジェンダ」の加速が予想されるもののUKAは先週末に下落。さらに隔週オークションが再開;投資家のポジションも大きく影響する見込み。Redshaw社の見通し:横ばいから弱含み
  • UKAの終値は43ペンス減の45.52ポンド。木曜のイギリス総選挙を前に弱気・強気いずれも市場を支配するに至らず、週を通して価格が変動。労働党の勝利で金曜にやや反発したものの、上昇傾向は続かず、同日の取引終了前に下落。その後、45.80ユーロのサポートラインを割ったことで弱気が優勢となり、市況はさらに下落。
  • 日中ボラティリティは1.44ポンドに低下(前週は1.94ポンド)。取引レンジは2.04ポンドに縮小(前週は4.10ポンド)。
  • イギリスのガス貯蔵量は47%に微増(前週は45%)。気温は平年並み、再生可能エネルギー発電量は発電源毎に異なる見通し。
  • 取引ポジションのデータ:投資ファンドのロングポジションが増加。前週の610万トンに対し、先週は760万トン。6月28日取引終了時点のデータ
  • EUAの上昇により、先週のEUAとUKAの平均スプレッドは-15.60ユーロに拡大(前週は-12.25ユーロ)。
  • 次の重要なサポートレベルは44.45ポンド、43.72ポンド、40.55ポンド。一方、レジスタンスレベルは45.80ポンド、47.02~47.19ポンド、48.55ポンド。

Carbon ETFの排出枠ポジションは不変。
  • KFA Global Carbon ETFのEUA保有量は不変。NAV(Net Asset Value:純資産総額)は3.2%増。
EUAのテクニカルな短期見通し
  • トレンド急変。69.61ユーロが維持されればロングを推奨。
コンプライアンス市場(法的取り組み)に関するその他の最新情報
  • 労働党が重要なグリーン公約を直ちに実行することを発表;EUAが下落する中、リパワーEU計画による収益が予想を下回る結果に。
ボランタリー炭素市場(自主的な取り組み)に関する最新情報
  • Puro.earthが炭素除去認証に関する新たな料金体系を導入。
再生可能エネルギー市場に関する最新情報
  • GO価格は引き続き下落傾向;フランスが再生可能エネルギー容量の拡大に108億2,000万ユーロを投資;エンジーとグーグルがベルギーで118MWのPPAを締結
技術的見通し
以下は受賞歴のあるクライブ・ランバート氏(Futurestech社)による分析。
  • 短期傾向:横ばいから強含み
  • 中期傾向:横ばいから強含み
  • 昨日(2024年7月7日)までの相場動向200日単純移動平均が引き続きレジスタンスとなる可能性があるが、69.61ユーロがサポートになるのであれば、ポジションを再考し、価格上昇を期待できる余地あり。水曜には十字線が出現。木曜と金曜も大した動きはなく、200日単純移動平均を突破することはなかったが、69.61ユーロのサポートは維持された。取引は概ねやや低調。これは夏のせいかもしれない!
  • 大局的見解:ここ数週間からも明らかなように、78.09ユーロが鍵。67.78ユーロも同様に重要となるか? 多分それはない。
  • 推奨取引:双方向取引の余地あり。下落場面で69.61ユーロがサポートになるのであれば、ロングを推奨。
ガス価格の下落と電力価格の上昇でクリーン・スパーク・スプレッドが改善

  • 右記の図(上)は、EUA、ドイツ電力、ARA石炭(石炭のベンチマーク)、TTF天然ガス(天然ガスのベンチマーク)の一年先の先物価格の推移。
    • Y1(期近12月物)を見ると、先週、 EUAは4.4%増、ドイツ電力は2.6%増、ARA石炭は0.1%増、TTFガスは0.7%減。
  • 右記の図(下)はドイツにおける発電のマージンの今後1年間の予想推移(燃料源は石炭とガス)。
    • Y1石炭のマージン(効率42%)は-1.9ユーロ/MWh 前後(先週は-1.89ユーロ/MWh 前後)、Y1ガスのマージン(効率59%)は4.72ユーロ/MWh 前後(先週は3.20ユーロ/MWh 前後)。
コンプライアンス市場(法的取り組み)に関するその他の最新情報

労働党が重要なグリーン公約を直ちに実行することを発表:労働党がその選挙公約に「全力で取り組む」ことを明らかにした。これには総選挙での圧勝を背景としたグリーン政策も含まれている。現行のいくつかの重要な政治公約が撤回されることにより、政権を譲る保守党のリシ・スナク首相のグリーン・レガシーは事実上、白紙となる。同首相はガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止の延長、低炭素暖房目標の緩和、エネルギー効率の改善を公約としていた。

労働党の公約で注目すべきは2050年ネットゼロ目標の維持・継続に加え、社会事業に注力する政府系再生可能エネルギー投資団体「グレート・ブリッティッシュ・エナジー」の立ち上げ。さらに、北海での石油・ガス開発の新規認可を停止する一方、ガス火力発電所向けに戦略的備蓄を確保することで安定供給を担保し、責任あるエネルギー転換を支援することも公約している。また、スナク政権下で2035年に延長されていたガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止は本来の2030年に前倒しされる。2030年の脱炭素電力の実現については、陸上風力発電容量を倍増、洋上風力発電容量を4倍増、太陽光発電容量を3倍増する計画。

EUAが下落する中、リパワーEU計画による収益が予想を下回る結果に:Carbon Pulseによると、リパワーEU計画による初年度の収益がEU目標を3億ユーロ下回っている。ロシア産エネルギー源への依存を下げるため、EU圏の炭素市場は200億ユーロの資金調達を目標としているが、これを達成するにはさらに多くのEUAを販売しなければならない。しかし、収益目標を達成する上で販売量の上乗せが必要となれば、中短期的にEUA価格に下方圧力が加わることになる。

オークションを主催するEEXのデータによると、リパワーEU計画による初年度の収益は計画の59億ユーロに対し、56億ユーロにとどまっている(ともにEUAの平均オークション価格を75ユーロとした場合)。現在、リパワーEU計画の規定にもとづき、EU加盟25ヵ国を代表して週に3回販売されるEUAが追加発行されており(追加分は1回の販売について610,500トン相当)、その収益はEUの復興レジリエンス・ファシリティ(RFF)に繰り入れられている。RFFの目標額は3,000億ユーロ(内、EUAの販売によるものは200億ユーロ)。これで加盟各国を支援し、ロシア産化石燃料からの脱却を図る。

ボランタリー炭素市場(自主的取り組み)に関する最新情報

Puro.earthが炭素除去認証に関する新たな料金体系を導入:工学的除去から創出されるカーボンクレジットの主要取引プラットフォームを運営するPuro.earthがそのサービス料金体系を変更する意向を明らかにした。炭素除去のサプライヤーに市場参入を促し、ボランタリー炭素市場(VCM)の透明性を高めることが目的。変更はVCMの収益構造に関する現行の協議を受け、2024年10月1日に施行される。

新料金体系の主な変更点はCO2除去クレジット(CORC)について定額化されるコスト。CORCの売買代金にもとづく料金ではなく、サプライヤーが発行団体に報告するCO2除去量(トン)が新たな基準となる。これにより、サプライヤーと監査役との間の利害の対立が軽減され、市場のインテグリティが向上する。新料金体系は市場参入を広く奨励する一方、初期費用を不要とし、監査費用も負担するため、小規模企業に対しても参入の障壁は低減される。また、サプライヤーは発行時点ではなく、CORCが売れた時点でサービス料を払うことになるため、発展途上の企業は資金調達ギャップを埋め合わせることができる。
 
再生可能エネルギー市場に関する最新情報
本年第27週AIB再生可能エネルギー:

2024年AIB GO仲値=0.98ユーロ(14%減)

夏季の需要低迷でヨーロッパのグリーン電力証書価格(GO)が直近の最高値から引き続き下落バイヤーの不足と供給過剰で市場の流動性が低下。来たるポルトガルでのオークションでさらに市場への供給量が増加。これが価格を押し下げる見通し。

しかし、価格が下がれば、生産者はデータセンターやグリーン水素プロジェクトの開発、市況回復による今後の需要増を見込んで販売を抑えるよりは、むしろ先物販売に消極的になる。

UK RGGO(Renewable Gas Guarantees of Origin:再生可能ガス原産地証明)の指標価格:
購入目安:7.00~7.50ポンド、売却目安:10.00~10.50ポンド

UK REGO(再生可能エネルギー原産地証明書)の指標価格:
CP22: 14.75~15.00ポンド; CP23: 9.30~10.00ポンド

フランスが再生可能エネルギー容量の拡大に108億2,000万ユーロを投資: 欧州委員会が「暫定危機・移行枠組」(TCTF)にもとづき、108憶2,000万ユーロの補助金をフランスに支給することを決定した。ロシア産化石燃料への依存を下げることが目的。

補助金は今後20年に渡って支給されるが、双方向差額契約(CfD)にもとづき、補助金額は月毎に異なる。この補助金により、2基の着床式洋上風力発電施設が建設される。南大西洋地域に建設される施設は設備容量1~1.2GW。ノルマンディーのサントル・マンシュ2地域に建設される施設は設備容量1.4~1.6GWとなっている。

エンジーとグーグルがベルギーで118MWのPPAを締結: フランスの電気・ガス事業者エンジーがグーグルと買電契約(PPA)を締結。ベルギーから118MW相当の再生可能エネルギーをグーグルに供給する。
契約にもとづく電力の一部はベルギーに新設された4基の陸上風力発電施設(総出力26MW)から供給される。さらに、同じくベルギーの既存の風力発電施設から8年に渡り、92MWの電力も供給する。
これにより、グーグルには合計で年間約3.7TWh相当の再生可能エネルギーが供給されることになる。



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