炭素排出枠、売り圧力に押され気味

  • EUAの終値は66.19ユーロ。前週比15%減。11.94ユーロ幅で取り引き(前週は13.05ユーロ幅)。
  • EUAが急落。反発を試みるに直ぐに終了。値動きが激しい中、週半ばに安定操作するも、その効果は持続せず。下落反転の努力の甲斐なく、価格は引き続き減少。
  • 市場は9月14日に予定されているEUのエネルギー緊急対策の提示に期待。電力価格の上限規制または財政支援(あるいはその両方)が工業生産とEUAの需要を下支えする可能性はあるものの、現在のさらなる生産量削減(弱含みのオーダーブックも一因)の動きは今後もEUAを圧迫する可能性あり。
  • 市場はリパワーEU計画にもとづく200億ユーロのEUAの販売の承認を期待。具体的な販売量は提示されていないものの、追加供給量は当初検討されていた2億5000万トンをはるかに超える見込み。これにより、EUAの価格がさらに圧迫されかねない。販売のタイミングも鍵。MSRによる介入が慣例を覆し、全体の市場センチメントが悪化することも考えられる。
  • ガス価格に上限規制が課せられた場合、クレムリンはヨーロッパへのエネルギー供給を完全に停止する構え。また、「西側諸国による制裁が解除されるまで、ノルドストリームは再開しない」とも明言しており、これがマクロ経済的問題となりかねない。
  • 現在のガス備蓄量は潤沢の模様。平均で約84%。FSRUによる備蓄も貢献している。米国イリノイ州フリーポートのLNG施設の再開が焦点(11月の予定)。COVIDによる影響が残る中、中国からヨーロッパへのロシア産LNGの再輸出は継続する見込み。冬季のガス供給の減少が懸念される。
  • ヨーロッパは引き続き、石炭・石油火力発電に依存(その他のニュースを参照)。

今週、オークションは開催されないものの、販売量は増加傾向。市場展望:横ばい
  • UKAの終値は77.25ポンド。前週比20%減。21ポンド幅で取引(前週は6.08ポンド幅)。
  • EUAに対するUKAのプレミアムの週間平均は26.77ユーロに減少(前週は30.75ユーロ)。図表2を参照。現在の全体のプレミアムは9.03ユーロ。
  • UKAは週の大半で急落。週の減少分の一部が取引終了間際に挽回されたのみ。
  • イギリス新首相が提案している電力価格の上限規制と企業保護措置が下支えとなり得るが、支出の増加がインフレ圧力となる可能性あり。
  • 今週のオークションは無し。9月21日の次回のオークションでの取引量は330万トン。余剰分追加後、約4%の増加(未割り当ての2022年航空排出枠)。

投資家の関心、引き続き低下
  • KFAグローバルカーボンETF(投資家のための指標)におけるEUAは約3%減少して7百万トンに。UKAも約2%減少して489,000トンに。NAVは約7億9,500万ドル。

技術的な短期見通し:弱含み
  • FuturesTechの次期予想水準:62.96ユーロが次期キーレベル
  • 推奨される取引:戻り売り

コンプライアンス市場に関するその他のニュース
  • ドイツの発電量の3分の1は石炭火力に依存。EU各国のエネルギー相がガス・電力危機に対する取り組みを徹底討論の構え。

ボランタリー炭素市場ニュース
  • GER(Global Emission Reduction)は前週比横ばい。Howdenがボランタリー炭素市場での不正に対する保険を初めて発売。

再生可能エネルギーニュース
  • EUのGOは約4%減で3.77ユーロ。全世界で再生可能エネルギーに移行した場合、採算は6年で取れる見込み。EUは再生可能エネルギー源としての木の燃焼を中止すべき。
テクニカルな見通し‐強気
Futurestechs Limited.の受賞アナリスト、クライブ・ランバートによる分析。
  • 短期傾向:弱含み       
  • 昨日時点のローソク足チャート:金曜に再び陰線。直近の売りの集中が弱まることなく継続したため、6回連続の陰線。当日の最安値は65.55ユーロ。これは前回の大暴落(底値55ユーロ)から回復を始めた3月8日以来の最安値。
  • 推奨される取引 :戻り売り

石炭マージンは増加、ガスマージンは減少。
  • 下記左の図はEUA、ドイツ電力、ARA石炭、TTF天然ガスの先物価格の推移
    • 先週、Dec Y1 EUAは約15%下落、Y1ドイツ電力は約5%上昇、Y1 ARA石炭は約6%下落、Y1 TTFガスは約6%上昇。
  • 下記右の図は石炭とガスを燃料源とするドイツの発電マージンの先物価格。
    • Y1石炭マージンは345ユーロ/MWh前後(前週比5%増)、ガスマージンは132ユーロ/MWh前後(前週比11%減
    • ガスと比較し、発電燃料としての石炭は引き続きコスト的に有利。       

コンプライアンス市場に関するその他のニュース
ドイツの発電量の3分の1は石炭火力に依存。 ドイツの1H22石炭火力発電が前年比17%増加したことにより、現在のドイツの発電量の3分の1は石炭火力が担っている(前年比27%増)。一方、ガス火力発電は11.7%に減少。こうしたガスから石炭への移行が第2四半期に重くのしかかっており、石炭火力発電が23%増(年間ベース)となる一方でガス火力発電は19%減となっている。また、同国の原子力発電は約50%減(国内6ヶ所の発電所の内の3ヵ所が閉鎖)。冬季の電力不足の可能性は排除されていないものの、頼りは現在86%の水準にある国内備蓄。

EU各国のエネルギー相がガス価格の上限規制と発電事業者への超過利潤税を支持。 EU各国のエネルギー相が緊急会議を開き、EUのファイブポイントプランを検討。このプランには超過利潤税、省エネルギー活動、低炭素電力のコストの抑制が含まれている。まだ最終決定には至っていないものの、ガス輸入価格の一時的な抑制と発電事業者を対象とした超過利潤税は大筋で支持されている。一方、ヨーロッパへのエネルギー輸出の完全停止をクレムリンが警告する中、一部の加盟国はガス価格の上限規制に反対している。さらに、ドイツ・スペイン・北欧諸国がEU-ETSの保護を支持する一方、ポーランドはEUA価格の上限規制とEU-ETSの1~2年間停止を求めている。こうした話し合いは、イギリス政府が光熱費の補助と企業の保護に向けて総額1,500億ポンドの予算を発表した時期と一致しているが、超過利潤税は除外されている。
ボランタリー炭素市場ニュース
GER (Global Emission Reduction)は前週比横ばい。
AirCarbon ExchangeのCET(CORSIA Eligible Token)は前週比3%増。GNT(Global Nature Token)は横ばい。

Howdenがボランタリー炭素市場での不正に対する保険を初めて発売。 保険ブローカーのHowden Group(保険取扱高100億ドル超)がカーボンファイナンス会社のRespiraおよび再保険投資会社のNephila Capitalと提携し、カーボンクレジットを巡る第3者の過失と不正に対して保険を提供する。その主な目的は、カーボンクレジットの購入における風評被害の防止。Howdenと提携先の両社は、Respiraが認証するクレジットの「一括ポートフォリオ」の販売から始める。このポートフォリオには統合ロット として保険がかけられる。販売後に不正または過失が発覚した場合、Respiraはオプションとして保険金を請求し、買い手の損失を補償する。今後、市場が拡大し、保険リスクの価格設定が改善されるにしたがい、多様なクレジットポートフォリオを持つ大企業が各社で保険に入るようにすることが目的。
再生可能エネルギーニュース
第36週 AIB再生可能エネルギー(本年):

仲値:3.7650ユーロ(0.1450ユーロ減)

UK RGGO気配値:
作物:15.50~17.00ポンド、廃棄物:26.00~30.00ポンド(横ばい)

全世界で再生可能エネルギーに移行した場合、採算は6年で取れる見込み。 スタンフォード大学の最新の分析によると、全世界で再生可能エネルギーに移行した場合、コストの総額は62兆ドルとなるが、そのコスト削減効果により、返済期間は6年以下と推定されている。この調査では45ヵ国における移行コストが試算された(合計で全世界の排出量の99.7%に相当)。移行後、民間部門のエネルギーコストは毎年62.7%(11兆ドル相当)減少する計算だが、化石燃料にともなうすべての社会的コストを考慮すると、さらなるコスト削減が期待できる。さらに、全体的な排出抑制(発電所による大気汚染や気候変動等)を計算に入れると、返済期間は1年以下となる。なお、この移行に要する土地が全世界の土地に占める割合は1%未満とのこと。

EUは再生可能エネルギー源として木の燃焼を中止すべき。 9月13日の欧州議会投票では、木やその他の森林木材の燃焼を今後もEUで再生可能エネルギー源と見なすべきか否かが決定される。現在、その法定目標の中でEUが再生可能エネルギー源として扱う量の大半は木の燃焼に由来するが、そのエネルギー単位当たりの炭素排出量は石炭燃焼の場合より多い。森林バイオマスを燃焼させれば、「化石燃料と比較し、今後20から50年、あるいは数世紀に渡って温室効果ガスの削減が著しく損なわれるか、または逆に増加する」とECの科学者は警告している。また、「気候変動の緩和する上で持続可能な炭素捕捉だけでは不十分」とも主張している。一方、政府間パネルは「バイオマスをカーボンニュートラルとすべきではない」と警告している。現在、木質バイオマスの燃焼によるCO2の排出量はEU全体で4億トン未満である(ポーランドまたはイタリアの総排出量に相当)。現在、170億ユーロの補助金をともなう積極的な再生可能エネルギー導入目標により、木質燃料の消費は急増している。一方、ペレット製造会社のロビー団体は現行制度の変更に抵抗している。



会員登録・ログインでコメントの閲覧ができます。

法人様向けの有料プログラム

有料サービスに申し込む

コメント投稿や閲覧が可能

無料会員に登録する

既に会員のかた

ログインする